胃下垂
「胃下垂」という言葉を聞きますが、病気とは違うのでしょうか?胃下垂とはどんな状態のことをいうのか、また症状を改善するにはどんな方法があるか教えてください。(30代・女性)
内臓下垂の一つ
胃下垂とは、胃が正常の位置よりも下がった状態で解剖学的な位置異常をさし、これ自体病気ではありません。いわゆる『やせ型』の体型には、内臓を固定する靭帯が生来弱いことがあり、内臓下垂が起こりやすく、胃下垂はその一つです。
また、潰瘍や癌のような病変とは直接の関係はありません。診断は、バリウムを飲用し立位でX線撮影し、胃角が両側腸骨稜を結ぶヤコビー線より下方に位置するものをさします。
主な症状
胃の筋緊張の低下をともなう場合、胃アトニーといいます。胃内容が長く滞留するため、食後の上腹部膨満感や重圧感、滞留による胃酸の過剰分泌からくる胃痛や悪心、嘔吐、食欲不振、全身倦怠感、体重減少などの消化器症状があります。また、頭痛やめまい、肩こり、動悸など多くの症状を認めることもあります。
主な治療法と対処
自覚症状がなければ、特に治療は不要です。症状があれば、薬物療法や食事療法、理学的療法などを組み合わせて治療します。手術療法はまず行いません。
「薬物療法」
胃痛には制酸剤が効果的とされ、悪心や嘔吐には制吐剤(胃排出機能促進剤)や自律神経調整剤などを使用します。また、ストレスなどの心因的要因が加わっていることも多く、抗不安薬も有効です。最近では、ヘリコバクター・ピロリ菌感染による胃炎を合併した症例には、除菌療法が前述の症状改善にも有効といわれています。
「食事療法」
やせ形で慢性的に摂取量の少ないケースが多いため、食事は栄養価の高いものを胃に負担かけないようにして食べる工夫が必要です。例えば一回の量を少なくし、食事を5~6回に分けたり、水分を少なめにし、消化しやすい形に調理してよく噛む。また、少量のアルコールやコーヒー、香辛料は食欲亢進作用もあるので、胃に痛みがなければ摂取してもよいでしょう。目的は食事の制限ではなく、いかに快適に食生活を維持するかにあります。
「理学療法」
消化吸収を促進させるために、食後の体位の工夫(右側を下にして横になる)や特に腹筋の発達を促す運動(水泳や上体起こしの反復運動など)が効果的と考えられます。これらの療法により太ることができれば、胃下垂の症状の消失・改善も期待できます。
小諸厚生総合病院外科医長 黒岩 教和先生