乳腺症
何日か前から右の胸を押すと痛みがあります。乳がんではないかと不安です。(30代・女性)
乳腺症の特徴と原因
乳房にしこりがある、痛みがある、乳頭から血液混じりの分泌物などの症状。乳がんかもしれないと心配になり医療機関を受診される方も多いのではないでしょうか。ただ必ずしも命に関わる病気でない良性疾患であることもあります。その一つに乳腺症があります。授乳中にしばしば見受けられる乳腺炎も良性疾患に分類されますが、乳腺症とはまったく異なった病気です。乳腺の発育、妊娠・出産・授乳に関わるホルモンであるエストロゲン、この「エストロゲン作用の相対的過剰」が乳腺症の原因と考えられています。
乳腺症と乳がんの違い
30〜40歳代に多く、生理周期に一致する左右乳房のしこりや痛み(周期性乳房痛)が特徴的です。時に血液混じりの乳汁をみることもあります。乳腺症を顕微鏡でみると、正常な組織が増殖したり、水のたまり(のう胞)ができたりするのが観察されます。乳がんと決定的に違うことは、あくまで正常の乳腺組織が増えたり(増殖性変化)、衰えたり(退行性変化)しているということです。これに対して乳がんでは、健常の乳腺組織にはない悪性の細胞・組織が突如として現れ、これが増殖したり壊死を起こしたりしていきながらエンドレスに発育していきます。
検査方法と治療法
乳腺症と乳がんとの間に因果関係はないとされます。大事なことは乳がんときちんと区別しておくことに尽きます。症状だけ、あるいは視触診だけで区別することは困難です。乳腺症の一つで硬化性腺症と呼ばれるものの中には、ごく初期の乳がん(非浸潤性乳管癌・ DCIS)の発生をみることもあります。一度はマンモグラフィー、超音波検査、必要に応じて組織検査などをお受けいただくことをお勧めします。
乳腺症に対して特別な治療は必要ありません。正常からの逸脱で病気ではない、という考え方をすることさえあります。痛みが強ければ痛み止めを使うなど、症状が強ければその症状をとっていく治療(対症療法)が中心となります。前述したように乳がんとの鑑別を必ず行った上で、必要に応じて外来で経過観察を行っていくことが安心につながります。(2018.8)
佐久総合病院佐久医療センター 乳腺外科副部長 半田 喜美也先生